【一瞬の風になれ 第二部 ヨウイ】著者:佐藤多佳子 | 勝手に書評

【一瞬の風になれ 第二部 ヨウイ】著者:佐藤多佳子

佐藤 多佳子
一瞬の風になれ 第二部
【一言評価】
青春、スポーツ、

【こんな方にお薦め】
熱くなりたい方
スポーツ好きな方

【管理人感想】
一瞬の風になれの第二部 「ヨウイ」の方です。第一部の「イチニツイテ」を読んでいるので登場人物に愛着がわき、二部になる本書「ヨウイ」では登場人物が生き生きと深みを持って読めます。

一年の時の合宿で逃げ出した連も逞しくなってきました。
↓ネタバレ注意

連が故障した。完全個人主義アンド低体温な連が今までと違って、4継に見せる陸上への執着。それは仲間への想いだったんだね。怪我が治るまでドクターストップをかけられた連が、総体に出ると聞かない。
「守屋さん、最後だし。総体、むずかしいけど、まるっきり無理じゃないっしょ」
三輪先生が言っても耳を貸さない。ついに三輪先生は連を殴る。
どうしても走りたい連の気持ち。どうしても走って欲しいリレメンの気持ち。どんなに走らせたくても走らせるわけにはいかない先生の気持ち。
このかたまりきった場面を救う為に新二はなにかをいわなきゃと思うが、干上がったように声も言葉もでない。
「先生、すみません」
謝ったのは、守屋さんの声。守屋さんが連の隣に来て、連の頭を無理やりぐいと押すようにして、二人で礼をした。
「先生、勘弁してください。言いつけを破ってすみません。無茶してすみません」
「おまえが謝るこたぁ・・・」
言いかけた先生の言葉を守屋さんは遮った。
「部長として部員の管理が行き届きませんでした。俺がもっとこいつに言って聞かせないといけませんでした」
連が何か言いたそうに守屋さんを見たが、構わずに続けた。
「どこかで俺自身が一ノ瀬に期待していたのかもしれません。こいつと走ることをあきらめきれなかったのかもしれません。俺にそんな気持ちが少しでもあったから・・・」
 守屋さんは、その先までは言わずに唇をかみしめた。
 連は黙って守屋さんの横顔を見ていた。あきらめきれない無念そうな表情が、初めて連の顔に表れた。ずっと隠していた表情。心の内を連は決して顔には出さず、意固地に淡々と逆らい続けていた。一度、悔しさをあからさまに表に出してしまうと、ゆっくりと少しずつ顔つきが変わっていった。連の中で何かがほどけていくようだった。
 守屋さんのために、連は走りたがっていた。4継という競技の魅力以上に、南関東という舞台の華やかなさ以上に、連にとって大きなものがあったんだ。
「俺たちに任せてくれ、一ノ瀬」
守屋さんはきっぱりと言った。
「桃内、神谷、根岸、守屋、みんなで、めいっぱい走るよ」
根岸も、桃内もかたまったように黙っていた。
長く重い沈黙のあとで、
「ハイ」
やっと、連がそう言った。悔しさや悲しさをふっと越えたような素直な目と声だった。

いやぁー感動しました。部長の守屋さんすごく良いです!!!!
人が成長するには、周りの人が大きく関与する。この仲間だからこそ連が懸命になるんだね。

そんな部長としてすばらしい尊敬できる守屋さんから新二は部長として選ばれる。成長したねー新二♪
そしてそして、恋も少々。

谷口若菜への新二の恋も、初々しくて良い。

谷口から相談された新二。中長距離に変わらないかって、先生に言われ相談した。
そこで新二はトロくて頼りない谷口若菜の陸上へのひたむきな情熱を知る。
「走るの、好きなんだ」目を伏せてつぶやいた。小さな声。強い口調。
「不思議なんだけど。自分でも。練習がきつくても、タイムが伸びなくても、それでも好きなの」

そして兄の事故――。
プロになったサッカー選手の兄が交通事故にあった。命には別状はないものの足が・・・。
壊れそうなほどの新二は部活にも出れない。
新二はやるせない気持ちから「俺が事故にあえば良かったんだ」と兄に言ってしまう。
言ってはいけない言葉。
そんな時、谷口が「お願いがあるの」と家の前で待っていた。
100パーセント私のわがままだと言い、明後日の駅伝を見にきて欲しいという。

行く気はなかったが、どこでどう決意したのかバスにのる。
そして選手の走りを見た瞬間から惹き込まれ、気がつくと応援していた。

俺が走り始めて、二年、まだ、たたない。
長い時間じゃない。
でも、もう、降りることのできない山をのぼっているのだと思った。仲間たちと。苦しさと喜びとともに。

普通の言葉に、どれだけの気持ちが乗っかっているのか、込められているのか、それがしみじみと伝わってきます。

本書ですっかり大好きになった守屋さん。守屋さんが新二に打ち明けたストーリーをどうぞ。

「今だから言えるけど、部長を引き継ぐおまえにだけ言うけど、俺は正直、おまえらが入ってきた時、心配だったよ。おまえと一ノ瀬。特に一ノ瀬」
「二年になる前の春合宿で、鷲谷の大塚先生が言ってたんだ。部が選手を育てるんだぞって。いい選手といい指導者がいても、まわりに競い合う仲間がいないと、なかなか伸びないものだってな。部員同士が影響を与え合って、練習であいつがここまで頑張るなら俺もとか、試合であいつがここまでやれるなら俺もとか、相乗効果で全体がレベルアップしていくのが理想だって。
突出した選手が低いレベルの環境に入っていくと、全体がいい選手のレベルにアップしていくより、いい選手がまわりに合わせてレベルダウンしてしまうことのほうが多い。大塚先生がみっちゃんと他の先生に話をしていたのをたまたま近くで聞いてて、その時はなんとも思わなかっただが、一ノ瀬がひょっこり入ってきて考えちまってよ。ウチの部は、あいつを育てられるんだろうかってね。春高の陸上部が一ノ瀬連をダメにしたなんてことになったらマズイなってさ
特に、陸上部の部長になってからは、俺に何ができるんだろうって真剣に考えたね。ロング・スプリントでまだよかったけど、同じ短距離ブロックで、明らかに競技者として力が劣るわけだ。いくら俺が先輩でも、選手としては格が違う。こんな相手をどう扱うんだって
結局、自分のできることのせいいっぱいやるしかないって当たり前の結論に落ち着いたよ。一日、二日じゃない、毎日、毎日、三百六十五日だ。どんな日のどんな練習もおざなりにしない。どんな試合でもきちんと走る。毎日、ベスト更新だ。練習も試合も。気持ちだけはな。そうすれば、俺も選手として伸びるし、皆もついてきてくれるだろう。きまぐれな天才、一ノ瀬連でもだ」
守屋さんは、まさにその言葉を実践してきたのだ。守屋さんの口から聞かされるんじゃかったら、うんざりしそうな究極の正論だ。
「おれはただ、ここをいい場所にしたかったんだ。春高の陸上部をな・・・。どんなすごい奴でも、癖のある奴でも、力のない奴でも、堂々と受け入れて伸ばしてやれる場所。みっちゃんがああいう性格で、人数も少ないから、うちはけっこう自由だろ。アットホームでのびのびしてて。でも、一歩間違うと、馴れ合いの集団になっちまう
頼んだぞ、神谷
ここをいい場所にしてくれ」

カッコイイ!!
卒業しちゃって残念(><)

【関連】
一瞬の風になれ 第一部 イチニツイテ